大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和41年(わ)4121号 判決

本籍所在地

寝屋川市大字郡六九五番地

大東土地株式会社

代表者代表取締役

大東茂秋

本籍

寝屋川市大字郡六九三番地の一

住居

右に同じ

会社代表者

大東茂秋

大正五年一〇月一八日生

右両名に対する法人税法違反被告事件につき、検察官生駒啓出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人大東土地株式会社を罰金二三〇万円に、

被告人大東茂秋を罰金五〇万円にそれぞれ処する。

被告人大東茂秋において右罰金を完納できないときは金三、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大東土地株式会社は、寝屋川市大字郡六九五番地に本店を置き、土地建物の売買業等を営むもの、被告人大東茂秋は、昭和三四年八月八日から昭和三八年九月二九日まで被告人大東土地株式会社の専務取締役、同月三〇日以降同会社の代表取締役としてその業務を統括しているものであるが、被告人大東茂秋は、被告人大東土地株式会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一、被告人大東土地株式会社の昭和三七年八月一日から昭和三八年七月三一日までの事業年度において、その所得金額が一八、一一三、六二七円、これに対する法人税額が六、七七二、〇九〇円であるにもかかわらず、公表経理上売上の一部を圧縮除外するなどの不正の行為により、右所得金額中一三、九三三、一五四円を秘匿したうえ、昭和三八年九月三〇日、大阪府枚方市枚方税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が四、一八〇、四七三円、これに対する法人税額が一、四七七、四七〇円である旨過少に虚偽記載した法人税確定申告書を提出し、もって同年度分の法人税五、二九四、六二〇円を免れ、

第二、被告人大東土地株式会社の昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度において、その所得金額が二四、二〇六、〇二九円、これに対する法人税額が九、〇三四、一九〇円であるにもかかわらず、前同様の不正の行為により、右所得金額中一五、七二五、二九一円を秘匿したうえ、昭和三九年九月二九日、前記枚方税務署において、同署長に対し、右事業年度分の所得金額が八、四八〇、七三八円、これに対する法人税額が三、〇五八、五八〇円である旨過少に虚偽記載した法人税確定書を提出し、もって同年度分の法人税五、九七五、六一〇を免れ

たものである。

(証拠)

一、枚方税務署長作成の証明書二通(昭和三七年八月一日から昭和三八年七月三一日までの事業年度および昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度分の各法人税申告書写添附)

一、登記官吏古田寛治作成の被告人大東土地株式会社に関する登記事項証明書

一、同会社の定款

一、収税官吏守山光平作成の調査てん末書四二通(大西正明、棚橋鉄造、吉田徹也、中島貞雄、武田恭三、北尾衛、西田幸雄、西田畯治、春日三郎、妻谷彰、大岡五三実、上田勝健、旭俊雄、近藤恒正、西村正己、河原滋、上野宗男、大木説喜松、川田美数、菅正美、福川英一、清水俊男、近藤春男、中藤忠夫、森本健治、今井愛、矢野達郎、島田光富、樋垣正三、森錦治、富川商事株式会社庶務課長藤田太郎、高木俊司、全国商業高等学校協会事務局長伊沢信治、エッソスタンダード石油株式会社大柿勝美、河上英夫、斉藤一勝、藤井繁次郎、若住昇、小沢健男、松尾茂樹、西口雄三、大東土地株式会社奥村勝作成の各供述書または確認書添附)

一、収税官吏黒沢義治作成の調査てん末書六通(平田保、滝川堅治、森西好数、高橋吉雄、目清二、塩沢政一作成の各供述書添附)

一、収税官吏守山光平、黒沢義治作成の調査てん末書一通(日越商事株式会社大阪支店長岩本一郎作成の確認書添附)

一、収税官吏高木正雄作成の調査てん末書三通(稲富忠、枚方信用金庫寝屋川支店長森本秀雄、関西相互銀行香里支店次長森敏一作成の各確認書添附)

一、収税官吏作成の矢野達郎に対する質問てん末書

一、収税官吏作成の奥村勝に対する昭和四〇年七月一二日付質問てん末書

一、奥村勝の検察官に対する供述調書

一、第六、八、一二回各公判調書中証人奥村勝の供述部分

一、証人奥村勝の当公判廷(第二二回公判)における供述

一、奥村勝作成の個別原価計算説明資料綴一冊、同資料訂正書一綴、被告会社主張所得金額並びに法人税額計算書一通、別口損益計算書二綴(第二二回公判で取調のもの)

一、枚方税務署昭和三四年八月二四日受付たな卸資産評価方法、固定資産償却方法の届出書(写)

一、大東土地株式会社代表取締役大東茂秋作成の大阪国税局長宛上申書および追加上申書

一、証人山根重雄の当公判廷における供述

一、収税官吏の被告人大東茂秋に対する質問てん末書一一通

一、被告人大東茂秋の検察官に対する供述調書二通

一、第一六回公判調書中被告人大東茂秋の供述部分

一、被告人大東茂秋の当公判廷における供述(第二二回公判)

一、領置してある旭ケ丘工事計算書(第一期)一綴(昭和四二年押第一九七号の一)、総勘定元帳二冊(同号の二、三)、振替伝票一一綴(同号の四、五)、土地台帳一綴(同号の六)香楽園売買契約書綴一綴(同号の七)、旭ケ丘売買契約書綴一綴(同号の八)、現場出来高調兼見積原価計算帳一冊(同号の九)、不動売買契約書一四通、香楽園分譲受託者区画別計算書一綴(同号の一一)、昭和三八年度売買契約書三綴(同号の一二、一三、一四)、精算書綴一綴(同号の一五)、普通預金通帳一冊(同号の一六)、総勘定元帳一綴(同号の一七)、振替伝票二枚(同号の一八)、不動産売買契約書二通(同号の一九)、住宅地造成関係書類一綴(同号の二〇)、香楽園原価計算書類一綴(同号の二一)

(たな卸資産の評価方法についての当裁判所の判断)

一、本件の争点は、土地販売益算出の基礎となるたな卸資産の評価について、被告会社が実際に本件事業年度の法人税確定申告において採用した推定総括原価方法(総平均法)によるべきか、または、弁護人主張のような実質個別原価方法(個別法)によるべきかという点にあるので、まず、いずれの評価方法によるべきかを判断するに、前掲各証拠および第五回公判調書中の証人中根正、同近重武男、同辻一の各供述部分によれば、電鉄会社等の営む比較的大資本の宅地造成分譲業者にあっては、その資本力に物を言わせて市街地から遠くはなれた広大な土地を一括購入、造成し、短期間で販売することが通常なので一率な原価計算に適するころから、簡明な総平均法がのぞましく、この方法を採用することが普通であるのに対し、運転資金量の少い中小企業にあっては、小地域を逐次購入、造成してゆき、造成の終った区画から順次売出すので販売期間も長期にわたることが多い。しかもそのような業務をとると土地の購入価格が場所によってかなりの大差を生じ、あるいは高価で買いいれた区画が市街地に近いため先に売れ、安価で買いいれた区画が市街地から遠いため売れ残ってゆくというようなこともありがちである。したがって中小資本の宅地造成分譲業者のばあいは、どちらかといえば個別原価方法によるほうが、経営の実態に即し、租税負担に無理を生じない。そこで被告会社は、たな卸資産評価方法につき個別法を選定して法人税法施行令二九条に基き昭和三四年八月二四日所轄枚方税務署にその届出をしていたこと、してみると被告会社は本来個別原価計算によってたな卸資産を評価し法人税の確定申告をすべきであったこと、ところが被告会社は前記のように推定総括原価方法によって本件法人税確定申告をしたのであったが(その原因としては、被告会社が当時土地分譲の事業をはじめて間がなかったため、経理担当者が不馴れであり、かつ人手不足もあって複雑な個別原価計算を回避して安易な方法をとろうとしたことのほか、売上の圧縮除外等の不正経理がなされていたため、証憑書類の破棄、散逸によって土地の原価に配賦すべき諸費用の把握が一層困難であったことも推測される)、ただしこの評価方法はあらかじめ所轄税務署係官と相談のうえその了解をえていたものであり、その後(本件告発よりは前)収税官吏の調査に対し、不正確ながらも、個別原価計算を申告して当初の確定申告を修正しようとしていること、被告会社は本件以後の事業年度においても個別法によって、法人税の確定申告を続けていることが認められるので、これらの事情に微すると、本件法人税の算定においては、たな卸資産の評価方法は個別法によることが相当である。

二、そこで個別法により販売した土地の原価計算をしなければならないが、前掲各証拠によれば、奥村勝作成の別口損益計算書は、本件起訴後諸資料を整備し、実測した土地の各区画ごとに算出した造成費を共通費用と個別費用に細分してそれを各土地に配賦しており、その明細を検討しても、意識的に原価高になるように個別原価を算出した形跡はうかがわれず、適正に計算されたものと認めることができる。

よって右計算に基づき、別紙のとおり脱税額を算出した。

(法令の適用)

被告人大東土地株式会社の判示各行為はそれぞれ法人税法(昭和四〇年法律第三四号)附則一九条により、改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)四八条一項、五一条一項に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で同被告人を罰金二三〇万円に処し、被告人大東茂秋の判示各所為はそれぞれ法人税法(昭和四〇年法律第三四号)附則一九条により、改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)四八条一項に該当するところ、被告人は大東土地株式会社設立以来今日まで真面目に事業に専念し、その間寝屋川市長、寝屋川商工会議所会頭等から感謝状、表彰状を受けるなど社会的にも貢献してきたものであり、本件犯行の動機としては、土地売買の相手方から、税金対策として圧縮記帳を要求されることが多かったこと、本件犯行後は深くその罪を反省して被告会社の納付すべき法人税を加算税、延滞税と共に完納し、会社の経理および納税につき再び本件のような違反行為をおこさないよう配慮していること、宅地建物取引業法二〇条一項三号によれば、法人の役員のうちに禁錮以上の刑に処せられた者があったばあい、宅地建物取引業の免許が取消されることになっていること等の事情を考慮して本件各違反行為につきそれぞれ罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから刑法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で同被告人を罰金五〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは、三、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、なお訴訟費用(証人支給分)は、刑の言渡の基礎とならなかった事実の審理に要したものであるから被告人らに負担させるべきではない。

(裁判官 梶田英雄)

脱税額計算書

自 昭和37年8月1日

至 昭和38年7月31日

〈省略〉

自 昭和38年8月1日

至 昭和39年7月31日

〈省略〉

犯則税額計算

自 昭和37年8月1日

至 昭和38年7月31日

〈省略〉

犯則税額計算

自 昭和38年8月1日

至 昭和39年7月31日

〈省略〉

別口損益計算書

自 昭和37年8月1日

至 昭和38年7月31日

〈省略〉

自 昭和38年8月1日

至 昭和39年7月31日

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例